飛行機
飛行機(ひこうき)とは、胴体に固定された翼で揚力を得る航空機である固定翼機(可変翼機を含む)のうち、動力により推力を発生させるものである。
飛行機という名を初めて使ったのは 森鴎外 。
一般に飛行する機械、つまり航空機全般を指してこう呼ぶ場合もあるが、本項では上記の定義に従う。
飛行機は、(原理的には) 空 を自由に飛ぶことができる。この事から下記特徴が導き出せる。
速く移動できる
速く移動できることは、長距離の移動に際し大きなメリットとなる。現在遠い外国へ行く人は(一部の時間や予算の有る人用の クルーズ客船 以外は)たいてい飛行機を利用する。国際 郵便 を始めとする 貨物 類も飛行機で運ばれるものが多い。 アメリカ空軍 は本国から遠く離れた地域での緊急事態に備えて、 戦車 や ヘリコプター を搭載して 大洋 を横断できる 輸送機 を保有整備している。中距離や短距離の輸送(特に 離島 など海上を輸送する場合)でも、到着時間を優先する場合は飛行機が使われる(日本の場合、離島を多く抱える 鹿児島県 や 沖縄県 は飛行場が比較的多く、離島と本土の交通アクセスに役立っている)。
広い範囲を視認できる
軍事 用では、偵察・警戒・哨戒に飛行機は不可欠。 可視光 だけでなく、 電波 ( 早期警戒管制機 // AWACS)や 磁気 ( 対潜哨戒機 )による探索も行われる。非軍事分野では 空中写真 ( 測量 )や遊覧飛行などがある。日本の 活断層 の研究は、空中写真を詳細に分析することにより飛躍的に進歩した。
広い範囲に散布できる
農業 分野では広範囲に一度に 農薬 を散布する 農業機 も幅広く使われている。さらに、森林火災などにおいて多量の 水 を広範囲に散布し火災を食い止める事にも使用されている。軍事用では ベトナム戦争 時に 枯葉剤 の散布にも使用された。 クラスター爆弾 による爆撃もこの機能を利用した例と言える。

ケネディ宇宙センター へ空輸される スペースシャトル 「 アトランティス 」
大きな物を運べる
この目的のために様々な機体が作られている。一般に貨物機と呼ぶ部類に相当する。例えば エアバス 社はヨーロッパ各国の工場で生産された機体や翼など、大きすぎて地上での長距離運搬が困難な大型部品を、専用機「 ベルーガ 」で フランス ・ トゥールーズ の最終組立工場に運んでいる。 ボーイング 社でも同様に世界各地で生産された部品を専用機 ボーイング747-400LCF "DREAM LIFTER" でアメリカ・ シアトル の最終組立工場に運んでいる。 また ボーイング747 改造機である シャトル輸送機 が スペースシャトル を背負った オンブバッタ のような格好のもの(画像)があるが、これはシャトルをエドワーズ空軍基地から発射基地の有る ケネディ宇宙センター へ空輸している時の姿である。
飛行機の欠点としては、以下のような点があげられる。
大規模な離着陸施設が必要
飛行機は一般に 飛行船 や ヘリコプター と異なり、長い 滑走路 と大規模な離着陸支援設備と安全な空域を備えた 空港 ・ 飛行場 を必要とする。大型機が離着陸できる空港を建設するには、広大な土地と莫大な投資が必要で、 自然環境 の破壊や 景観 への悪影響が伴う。後述の 騒音の問題 もあり、日本では大空港の新設に当たっては都心から遠く離れるとともに、建設コストの高い埋立地( 人工島 )に立地せざるを得なくなっている。空港へのアクセスに時間がかかることが短距離の輸送に飛行機が用いられない理由の一つでもある。
エネルギー効率が悪い
他の交通機関、特に 鉄道 や 船 (船舶)と比較すると、エネルギー効率が著しく悪い。運行費に占める燃料費の割合が高く、燃料の価格変動が航空会社の経営に大きな影響を与える。燃料価格の変動分が 燃油サーチャージ (燃油特別付加運賃)として 運賃 に転嫁される場合もある。有効積載量のかなりの割合を燃料が占める点でも効率が悪い。長距離国際線の場合、離陸時の重量のほとんどは燃料と言っても過言ではない。そのため速達性を要しない物資の運搬には航空機は用いられない。
大気を汚染する
飛行機の排出ガスは、その量自体が多いことに加え、 エアロゾル や 窒素酸化物 (NO x )、 硫黄酸化物 (SO x )などが多量に含まれる。そして、ジェット燃料( ケロシン )には 鉛 が添加されており [ 要出典 ] 、有害な 鉛化合物 も含むため、深刻な 大気汚染 を引き起こす。飛行機は高空を飛行するため、飛行機による大気汚染は顕在化しにくいが、この排出ガスが上空の水分と反応して、 酸性雨 をもたらしている。 地球温暖化 の原因物質とされている 二酸化炭素 の排出も多く、 国土交通省 『交通関係エネルギー要覧(2000)』によれば、単位輸送量あたりの二酸化炭素排出量(g-Co2/人キロ)は、鉄道18.3、航空機110.0、 乗用車 165.0であるとしている。また、 IPCC は1999年に、全世界の二酸化炭素排出量の3.5%が航空機に起因すると報告している。
騒音が大きい
空港・飛行場の周辺では飛行機の離着陸時の 騒音 が問題となる。特にジェット機は、 ジェットエンジン が大きな音を発生するため、市街地周辺や深夜の飛行が禁止されている空港・飛行場もある。エンジンの低騒音化に向けた研究・開発が進められている。
電波障害 をもたらす
空港・飛行場の周辺では、飛行機の運航に必要な無線通信、レーダー等のための機器、施設が設置されることが多い。これらの機器、施設から発する電波の影響により 電波障害 が発生する。 ラジオ 、 テレビ 、 携帯電話 などの送受信に悪影響が出る。
宇宙線にさらされる
一般のジェット機の飛行高度(高度10キロ前後)では、地上における自然放射線の100倍程度の強さを持つ 宇宙線 が降り注いでおり、飛行機を利用すると、日常的に浴びているレベルより強い放射線にさらされる。特に長距離国際線に乗務する乗務員の被曝が問題になっている。 EU 諸国では、国の指針に基づいて乗務員の被曝限度量が管理されている。日本では宇宙線被曝は法的規制の対象外であるが、2006年5月、 文部科学省 ・ 国土交通省 ・ 厚生労働省 の担当局が合同で、年間被曝量5ミリ シーベルト を管理目標値として、措置を講じるように航空会社への通達が行われた [1] 。
車椅子 での利用が困難
ボーディング・ブリッジ やスロープ式の タラップ などがない場合は、 車椅子 での乗降が困難である。また、機内でも通路が狭いため車椅子での利用が不便である [2] 。他の交通機関で言うと、 高速バス も同様の問題を抱えている。
以下に述べるのは代表的な飛行機の構造の例である。ここに記したものと違った形態の機種も多く存在する。
たいていは主構造として胴体・ 主翼 ・ 尾翼 ・ エンジン ・ 降着装置 があるが、胴体と尾翼を持たない全翼機も少数が実用化されている。
胴体には、 パイロット を含む乗員・乗客・荷物( 貨物 )・前脚を搭載する。さらに 燃料 タンク・主脚を搭載するものもある。操縦席部分は「 コックピット 」、客室部分は「 キャビン 」、床下貨物室部分は「ベリー」と呼ぶ。単発機や3発機では胴体の最前部または最後部に1発のエンジンを搭載する。最初の飛行機には胴体と呼べるものは無く、操縦席は木製骨組みの上に簡素な イス を載せたものであった。その後木製の骨組を丈夫な帆布で覆った構造になり、現在は縦横に組み合わせた骨組の表面に アルミ 合金や 繊維強化プラスチック 製の薄い板を張ったセミモノコック構造が主流。なお空気の薄い(したがって 酸素 の薄い)高空を飛ぶ飛行機は、胴体内部の気圧を地上に近い状態に保っている(これを「 与圧 」と呼ぶ)。
セミモノコック構造の胴体は、主に以下の部材からなる:
詳細は 主翼 を参照
主翼はその周りに循環を発生させて飛行方向に垂直な力( 揚力 )を発生する部位である。一般に、低亜音速機に用いられる翼断面形( 翼型 )は上側が膨れた凸状であるが、飛行速度や用途によってさまざまな翼型がある。翼型と 翼平面形 (上から見た主翼のカタチ)は飛行特性に大きな影響を与える。効率的に揚力を発生させるには細長い平面形状が適する。主翼の縦と横の比率を アスペクト比 と呼んで平面形状の目安としている。高く遠くへ飛ぶ飛行機は主翼のアスペクト比を大きく設定した細長い翼が有利だが、あまりアスペクト比を大きくすると強度の問題等が出てくる。高速で飛ぶ飛行機の主翼には、高速での 空気抵抗 が少ない後退翼が採用される。 戦闘機 などの超音速機では、スルメのような三角翼が使われる。
主翼も現在ではセミモノコック構造が主流であり、主に以下の部材からなる:
スパー・リブ・スキンによってボックス構造を構成し、曲げやねじりに強くなっている。翼に発生する揚力などの空気力は、スキン → リブ → スパー → 胴体と伝わる。
桁の太さ・スキンの厚さと材質はその部分にかかる 応力 に応じて設定され、翼の先端近くでは桁は細くスキンは薄く設定される。最近ではこれらの構造を大きな金属槐から直接削り出す工法も採用されている。飛行中は揚力が主翼を上に曲げる方向に働くので、下面外板には引っ張りに強い素材、上面外板には圧縮に強い素材を選定する。 戦闘機 のような薄翼では、各場所にかかる応力に応じて素材を組み合わせて使う複合材料が多用される。

主翼内部の空所を水密構造にして燃料タンクに使うことが多く、この方式をインテグラルタンクと呼ぶ。また主翼にエンジンや主脚などの降着装置を装備することが多い。 攻撃機 などでは主翼に 爆弾 ・ ミサイル や増加燃料タンクをずらりとぶら下げているが、いずれの場合も主翼には充分な強度が要求され、脚や兵装の取り付け部は充分な補強が実施されている。
現在の飛行機は、特殊な場合を除き主翼は1枚(単葉)である。主翼後部(後縁部)には エルロン [3] や、離着陸の低速時に揚力を増大させる フラップ などの 高揚力装置 が装備される。主翼上面に揚力を減らすための スポイラー を備えるものもある。また、主翼端に抵抗を減らすための ウイングレット を装着するものもある。
詳細は 尾翼 を参照

尾翼は一般に、 モーメント を確保するために主翼から十分に離れた位置に置かれる。多くは胴体後端に設置されるが、胴体前部に設置した先尾翼機( エンテ型飛行機 )もある。上下方向に装備されるものを 垂直尾翼 、左右に伸びるものを 水平尾翼 と呼んでいる。垂直尾翼は、胴体に固定された部分を垂直安定板、その後ろの可動部分を ラダー と呼ぶ。水平尾翼は同様に水平安定板と エレベーター からなるのが一般的。尾翼の構造は主翼に準じるが、主翼に比べ強度上の問題も小さく簡素である。尾翼(両方もしくは水平尾翼のみ)の無い飛行機は無尾翼機と呼ばれる。
エンジン
現在の 飛行機用エンジン は、
とに大別される。
レシプロ機はエンジン出力軸の回転数を減速し、 プロペラ を駆動して、空気を掻いて推進力を得る方式がほとんどであるが、ガスタービンのものは、推進力を得る方式の違いにより、
がある。 このうち、ターボジェットエンジンは、タービン軸から機械的に駆動力を取り出す方式との区別のため、「ピュア・ジェットエンジン」と呼ばれることもある。それぞれは、その特性を生かし、用途により使い分けられている。
その他、過去に採用されたことがあるエンジンとしては、 第二次世界大戦 の前から終戦までのドイツでは、 クルップ と ユンカース による 上下対向式(de) 2サイクル ディーゼルエンジン 、 Jumo 205やJumo 207 を搭載した ドルニエ Do 18 【 Do 18(ドイツ語) 】や ブローム・ウント・フォス BV 138 、 BV 222 水上 輸送機 、 巡航ミサイル V1 に用いられた パルスジェットエンジン のほか、やはりドイツで大戦末期に登場した戦闘機、 Me 163 や、アメリカの超音速実験機 ベル X-1 などの ロケットエンジン があった。このうち、ディーゼルエンジンについては、 地球温暖化 防止に効果があるとして、近年再興の可能性が出てきた。
日本での航空機エンジンの数え方は、「 発動機 」に由来した「発」であらわされる。これは戦前からの慣習であるが、現在でもそのまま使われている。一基装備の機体を「単発機」(略して単発)、二基のものを「双発機」(双発)と呼び、それ以上はエンジンの数にそのまま「発機」を付けて呼ぶ。
ジェット 戦闘機 に代表される速度と運動性を重視する機体では、機体に対して大きなエンジンは、 空気抵抗 低減と質量(mass)集中のため、単発、双発とも、エンジンは胴体内に置かれる。 民生用 の小型〜中型機では、キャビン容積を重視して、主翼の上か下、もしくは尾部に置かれる。大型機では尾部にまとめるか、主翼下に パイロン で吊り、並列に配置するものが多い。
重量と体積の大きいレシプロエンジンでは、エンジン搭載位置の自由度は低くなり、単発機はもちろん、奇数発機のエンジンのうちのひとつは、機首や機尾、パラソル式(支柱支持高翼配置)の主翼上など、平面視での機体中心線上に置かれる。左右非対称の機体( ブローム・ウント・フォス BV 141 )でも、尾翼の付いた胴体側( 操縦席 の無い方)の中心線上にある。双発以上の偶数発機では、多くが 主翼 前縁に配置される。強度上の理由で、エンジンをまとめて設置するために2基一組にしたもの( ドルニエ Do X )や、速度を追求し、 前面投影面積 を増やさずに2基エンジンとしたもの( (ドルニエ Do 335) )ではタンデム配置のものもある。また、隣合う二つのエンジンをギアで連結し、2基のエンジンでひとつのプロペラを駆動するもの (ハインケル He 177) 【(ドイツ語)He 177】 も見られたが、これらは全て ドイツ 生まれである。
詳細は 降着装置 を参照
「脚柱(ストラット)+ 車輪(ホイール)」からなる脚が3個所に付いている形態が最も一般的。胴体前部にノーズギア(前脚)と呼ばれる小ぶりの脚があり、重心より少し後方の左右 に2本の主脚があるのが普通。現在では、小型機を除く多くの飛行機は、空気抵抗を軽減するために、飛行中に降着装置を折りたたんで胴体や主翼に格納してい る(これを「引き込み脚」と呼ぶ)。フロートを有した 水上機 や積雪地用に スキー を装備するものもある。
着陸滑走時に使用する ブレーキ は油圧作動の ディスクブレーキ である。小型機の場合ディスクは1枚が多いが、大型機では複数のディスクを使用するセグメンテッド・ロータ方式が多い。アンチスキッド機能を有するものも多い。また車輪の タイヤ は過酷な条件 [4] で使用されるため寿命が短く、各機種ごとに着陸回数に応じてタイヤ交換やゴムの巻き変えが決められている。
将来の 旅客機 の 方向性は、量(高度・速度など)から質(快適性、安全性、定時性)へ変換するとされている。20世紀半ばから比較して、1日当たりの離陸回数が指数関数的 に増大している現在においては、飛行機の更なる安全性の向上が必要とされる。また、日々膨大な数の飛行機が世界の空を飛んでいることから、飛行機はより一 層 環境 に順応したものとなる必要性がある。そして、飛行機の開発・運用・廃棄までに至る ライフサイクルコスト の低減も、当然考慮されなければならない。すなわち従来の「より速く」に加え、「より安全に、より安く、より快適に」がこれからの飛行機に望まれることである。
安全性の向上
フライ・バイ・ワイヤー のような 冗長性管理 では対処できないような、舵面制御 アクチュエータ の故障や機体損傷が発生しても、飛行性・操縦性が劣化しにくい飛行制御システム技術、及び、自動的に安全で最適な航路を創出する オートパイロット 技術について研究がなされている。また、空港での離着陸時に生じる飛行機の後方乱流を的確に避けることで、空港安全性・効率性を高める研究もある。代表例としては、 NASA で研究されている Intelligent Flight Control System や、Wake Vortex Avoidance Concept などである。
環境適合性の向上
ジェットエンジン の騒音や NOx 排出量を低減するための研究が、主な エンジンメーカー でも実施されている。
低コスト化
飛行機の運用コストを下げるために様々な試みがなされているが、注目すべき研究としては NASA での研究である Active Aeroelastic Wing がある。これは、いわゆるエルロン・リバーサルを逆に利用し、思い通りに主翼をねじ曲げることでロール機動を実現させようとするものである。これにより主 翼の構造重量が軽減され、 航続距離 の向上が見込まれる。
快適性・サービス性の向上
航空機メーカーは新型機の開発に際して、実際に運航を行う世界の主な 航空会社 との協力体制(ワーキングトゥギャザー)を強化している。一例として、 ボーイング777 型機の機内 トイレ 便座がゆっくりと下がる(バタンとならない)機能は、日本の航空会社の意見が取り入れられたといわれている。
記事:ウィキペディア(Wikipedia)引用